欧米には「Matial Arts」という呼び名があり、格闘技全般のことをいいます。
中でも「Arts」という言葉があるように、その格闘技を芸術性にまで高めることの要素を含んでいます。
「中国武術」の歴史は古くから「美学」の概念を含み発展してきました。
「美」という字は「羊」に「大」を加えて、引いては「大きな羊」のことを指していました。羊は放牧民にとって有益な生き物で、毛は衣類や寝具に用いられ 皮は火を起こす「ふいご」に用いられ 肉は食料として役立ち 全てが有効になりました。
それ故に本来は、生活の中で無駄のない「もの」のことをいいました。
現代社会では発展し、大きな意味で用いられていますが、本質的にみれば、安定感があり、バランスの取れた存在に 無駄のない、必要なもののみで構成されているものを指すようになりました。
武術的な美学を感じる要素というものは以下の7つがあげられます。
1、姿勢美
鶴のようにすらりと立つ上半身、しっかりと地に立つ安定した下半身、おおらかで全身を自由自在に操作でき、動け回る姿に受ける感覚。
2、勁力美
武術の力を発するのには発勁といい、必要な力を必要なところに迅速に伝えることを、武術用語では「勁力順達」といいます。
そこに素早くしなやかに力の発することに行う者も見ている者にも心地良さを感じます。
3、節奏(リズム)美
古くは「礼記」にも、その表記も見られ、武術の動作には伝統のものにも、静から動への連続性緩急の鮮明なリズム 力強さと柔らかなしなやかさ 攻防意識が織り成す姿に「舞」の境地をも感じさせられます。
4、精神表現美
武術の拳術には長拳の項目や太極拳のように穏やかで冷静な意識を用いるものもあれば、南拳のような「怒り」のような爆発力を表すものもあり、様々です。
一概にこれらが全てあてはまらないこともありますが、(福建南拳の中にも静かなものもあり、北派嵩山少林拳のような激しいものもあります)
5、造形美
武術運動には盤石でしっかりと安定した下半身の歩型(馬歩 弓歩)や「提膝」や「独立」と呼ばれる、片足立ちでびくともしないような歩型があります。
形作った動作にも芸術性をも感じさせられます。
6、結合美
武術の修練には「套路」という方法が用いられています。
日本の武道では「型」ともいいますが、武術表現には「套」は「セット:まとまり」に「路:みちすじ」をあわせ「套路」といいます。
「型」には同じ形で全てに統一された「鋳型」や「フレーム」に合わせて作るイメージがありますが、「套路」の「路」という言葉があるとおりに確固たる基礎を気付いた後には「それぞれの道」を行く、という自由意思が込められています。そのこと故に多くの門派、流派に分かれました。
武術運動には「套路」にみられる「連続性」が大きな特徴です。
門派や流派によってはシンプルに同じ動作の繰り返しの拳種もありますが、多彩な技の繰り返しの結合美の連続性が中国武術特有の魅力を持っています。
7、名称美
武術には動作名称にも「詩:ポエム」に似た多くの表現があります。
白猿出洞(ほら穴から伝説の白猿が躍り出る)や燕子抄水(燕が水面をかすめ飛ぶ)
仙鶴騰雲(鶴が雲を突き抜けるように飛び抜ける)
懐中包月(ふところの中に月を抱く)、大鵬展翅(大きな鵬がつばさを広げる)
蟷螂捕蝉(カマキリが蝉を捕らえる)
こういった自然の姿や生き物の表現から精神性や技撃能力を学び、技を修練していくのです。
人がそれを体得した時、巧妙な攻撃方法に身体操作、迅速かつ機敏に長けた動きをこなせるようになります。
「美学」は人の生き様や哲学に通じており、いかに無駄を減らし必要な力をより高め、人々に役に立つものへ転換させるものであります。
「美」は人生での生活をよりよく快活にしていく為に必要不可欠なものあります。中国武術は、健康な身体作り 攻防技術 芸術面での3つが融合した世界である、ともいえると思います。
ですから近来は中国国内においても専門家の多くの皆さんが、時代の流れの中で変化していくものに「武術ではない」とよくいわれる事については、この3つのバランスが大きく崩れているものに対して言われていることだと思います。
しかしながら武術世界は寛容な世界でもあり、賛否両論が多く出て、試行錯誤し今日まで続いてきました。
工夫と知恵をこらし時間を重ね、これからも大きな発展をしていくことを願っています。